透明図

「大体、これじゃいくつくらいかすらわかんないよ。年齢とかわかんないの?」

藤橋君の追求は止むところを知らないみたいだ。

「ノ、ノラは…」

今度は私が頭を抱え込む。

たぶん、あの喋り口調だときっと―ぐらい…、だよね。

私は頭の中にノラを思い浮かべてみる。

生意気そうな高い鳴き声。

うん、間違いないはず。

「ノラはきっと人間で言うと12才くらいだよ。」

藤橋君が、困ったような目をして私を見つめた。

なによ。

「いや、オレも一回その猫見たけどさ。明らかに大人の猫だったと思うんだけど…。」

藤橋君が恐る恐る言葉をはっする。

「エー。」

私はそれに真っ向から非難の声をあげる。

そして、しばし、にらめっこが続いてしまう。

藤橋君は、一通り悩んだ末に一つの結論を出した。

「よ、よし。絵は、無しで…。」

絵は無し…、それで本当にノラは見つかるのだろうか。

その後もしばらく言い合いは続いたけれど、たまりかねたように藤橋君はおもむろにノラの絵を白紙に描きはじめる。

素早く、特徴をつかむように、丁寧に。

私は出来上がったものをみて目を見張ってしまった。

「絵、うまいんだね。」

思わず感嘆の声をあげた。

そこに描かれていたのは、いくらか簡素化されているとはいえ、私が何度も何度も頭の中でリフレインしているノラそのものだった。

ただ、頬にはバッテン傷が無くなっていた。

その後もお昼が終わるまで、バッテン傷についての言い合いは続いた。