透明図

藤橋君は、私より悲しそうな顔付きだった。

私は聞かれるままに、藤橋君の問い掛けに答え、また涙ぐむ。

言葉を選ぶように、私をさぐるように、一言一言をつなげ、文章にする。

私が聞きとれたのは、猫は気まぐれな生き物だとゆうことと、きっとまたふらっと現れるんじゃないかなとか、私が何度も何度も頭の中で繰り返したものだった。

私は何度も何度も繰り返したはずのその言葉に、何度も何度も繰り返しうなずいて自分に言い聞かせる。

私にとって、そんな言葉が今はどれだけ大切かしらない。

私は藤橋君の言葉に、何度も何度も繰り返しうなずいた。

そんなやり取りをずっと繰り返していた。

周りの視線は、いつの間にか私たちから離れてしまい、店内にはいつものような雑然とした雰囲気が蘇っていた。

あれから、どれだけが経っただろうか。

私もいつの間にか落ち着きを取り戻し、藤橋君も少しずつ笑顔を見せていた。

もしかしたら、藤橋君の慰めの言葉が効いてきたのかもしれないね。

一人でいたら、今頃まだ公園でノラの姿を追っていたかもしれないよ。

私も、少しだけ微笑みで応えることにするね。

藤橋君は、学校で私が元気ない顔してたのを気にかけてくれていたそうだ。

「もしイジメられてるんだったら、オレがそいつ殴ってやろうと思ってたよ。」

なんて笑って強気で言ってきた。

「ウソウソ、藤橋君はそんなことできないよ。」

なんて私も思わず笑みがこぼれる。

話題は次第に来週から始まる中間テストのことに移った。

勉強、大変だよね。

私がなげると、藤橋君からは意外な返答がかえってきた。

「なぁ、明日探しに行こうよ!その野良猫。」

私ははじめてかもしれないが、キラキラ輝く少年のような目をした藤橋君を発見した。

その瞳に吸い込まれるように、私は大きくうなずいた。

「うん、行こう!」