透明図

次の日も、その次の日もノラはその場所にいなかった。

地表を濡らす小粒な雨達がはかなげに、私の寂しい心の隙間を湿らせてゆく。

左手に持ったスーパーの袋には、サバの切り身が一つ入っている。

ズシリと重みを増した傘とかカバンとかが、その重みに負けて落ちてしまいそうになる。

ほどけかけた私の手を、誰を慰めるわけでもないけれど、キュッと力を込めて支えてあげる。

今日は、ハトもいないや。
また、どこかで死んで行ったのだろうかな。

ノラももしかしたら。

なんて、私何を考えてしまってるんだろうね。

黒くショートに切りそろえた私の後ろ髪が、いつもより水分を多く含んでしまい、重く垂れ下がる。

気持ちがさえない。

開いた傘を閉じてしまって、もうこのまま雨に打たれて帰ってしまおうか。

そんな理由もない衝動に身をまかせたくなる午後。

後ろから声が聞こえた。

「よう、また来たのか」

少し甲高く生意気な声は、私の隅々まで響く。