透明図

藤橋君は、少しずつ言葉を続けてくれた。

ずっとさ。おんなじなんだよ。

おんなじ?何が?

ずっとさ、かわいそうなんだ。

かわいそう?

私は藤橋君の言葉の一つ一つに、丁寧に言葉を添えてあげる。

でも、藤橋君の言葉は相変わらず文章になってくれない。

次第にうつろになりゆく時間を感じる。

「ずっとおんなじだったんだ。俺が引っ越すたびにさおんなじことばかり起こるんだ。」

ふと、藤橋君の言葉に力がこもった。

おそらく藤橋君の中でも一つ、踏ん切りがついたのかもしれない。

「おんなじことって、鳩のこと?」

私もつられて力をいれる。
どうも、私一人じゃ力もいれられないみたいだ。

藤橋君の口が、とまどいながらも動きだそうとしている。

私はすでに次の言葉を予期しているが、それは何にもならない。

「そうさ、俺がいるだけで死んでくんだ。鳩だけじゃない。いろんなものがさ。」

現実味のない言葉が、私の頭を通り抜けようとした。

私はそれを必死でつかまえる。

そんな馬鹿な。

私は率直にそう思う。

藤橋君の言っていることは、私がずっと信じてたこと、つまり、あなたが鳩を殺しているんじゃないのという、まさにそのことであるにも関わらず、私はやっぱりそれを信じることはできない。

ただ、藤橋君の目がいっそう悲しく歪んでしまったから、私はそれを信じることも疑うこともできずに途方にくれるしかなかった。