透明図

「うん、今日もいるよー。よく知ってるね?」

私はあくまで何気ないように、そしてさぐりを入れるように、藤橋ユウヤに質問を返す。

「ああ、前にその猫と話しながら歩いてただろ?」

私は、確かに以前にノラと話しながら歩いていた。

ノラに話しかけ、ノラがそれに答え、本当に話をしながら歩いていた。

でも、ノラの声は不思議と私にしか届かないものだし、だからこそ私に安心して声をかけてきた。それがノラと出会うきっかけになった。

少なくとも私はそのように理解しているつもりだった。

だからこそ、私は少しどきまぎしてしまう。

まさか藤橋ユウヤにもノラの声が聞こえるのかと。

「あ、そうそう。この子、頭いいから私の言ってることがわかるんだよ!」

私は慌ててしまい、なんとなく意味のわからない返答をしてしまう。

そして思わずノラを覗き込む。

「安心しなって。アイツにオイラの言葉はわかんないよ。」

ノラはくぐもった声を発する。

その言葉の意味を理解してか、私は一息つくことができた。

なんだか不思議な藤橋ユウヤのことは、私はよくわからないけれど、なんだか不思議なノラが私に代わって藤橋ユウヤを理解してくれる。

状況はいつも私の手に余るのだけれども、確かなことはいくつかあるように思えた。

今、私にとって確かなこと。

藤橋ユウヤが、私を知り、私に何かを訴えようとしていること。

ノラが、私の味方であろうとしてくれていること。

後者は、なんだかかけがえのないようで、頼もしく何よりうれしいと思えた。

後は、私が向き合う必要があることか。