透明図

「あ、藤橋君じゃない、どうしたの?」

私はなるべく平静を装い、藤橋ユウヤに話しかけた。

ノラは今にも飛び掛かりそうな、あるいは逃げ出しそうな、そんな雰囲気だった。

ノラのむき出しになった爪が、わずかに私の肌を傷つける。

ノラ、痛いよ。爪が少し刺さってる。

ノラには私の心の声が届かなかった。

はじめて会った時に、私の心の透明図を見抜いたノラは、今は別の生き物のようだった。

藤橋ユウヤは、そんなノラを見てかすっと表情を変えて私に話し掛ける。

「あぁ、コンチハ。今日もいるんだ。その猫、お前んとこの?」

今日も…というのは、一体どういう意味なのだろう。

私は少しいぶかしんだが、ふいに訪れたこの機会を逃したくなかった。

はからずも、ノラと藤橋ユウヤ、最近の私を取り巻く不思議の的が一同に介してしまった。


ノラの研ぎ澄まされた爪のちょっとした刺激が、かえって私の神経を落ち着かせてくれる。

さて、私は何からはじめよう。

興奮しはじめたノラを抱いて、私は思ったより冷静に思考をはじめた。