大橋と別れてから、僕は美術室に来た。
描きかけの絵を完成させたかったからだ。
しかし、すでに先客がいた。


「……早苗ちゃん」

「あっ、やっぱり来た」

「やっぱり?」

「絵、描くんでしょ?」

…ああ、どうして彼女はこんなにも、するりと僕の中に入ってくるのだろうか。
美咲とは違う安心感があった。

「…見ててもいいけど、笑わないでくれよ」

「笑わないよ」

にこりと彼女が笑う。
無意識のうちに彼女の髪の毛を触っていた。


「……キレイだ」


髪の毛に口づけをする。
彼女の体が、強張った気がした。
佐倉くん、僕を呼ぶ声が震えている。

「さっ、佐倉くん…!」

――ゆーと!

「っ、わ、るい!」

美咲の声が鼓膜に響いて、僕は慌てて彼女から離れた。
彼女は震えたままの声で呟く。

「…大丈夫、ビックリしただけ」

「本当にごめん、悪かった」

「……泣いてるの?」

「…え?」