「恋愛ごっこだったんじゃねぇの?」

刺のある言い方にぐさりとくる。
歯に衣をつけない大橋の言葉は痛いところを突いていて、僕は正直驚いた。

「…そう、かもな」

「つーか、なんで早苗は佐倉の隣にいるんだよ!こっち来い!こっち!」

「…あたしまだ怒ってるんだからね」

早苗ちゃんの言葉に、大橋は「だっ、だからあれは…その…」と言葉を濁らせる。

「なにかあった?」

「ううん、ユキが女の人と夜中まで遊んでただけだから、佐倉くんは気にしないで?」

早苗ちゃんはいい子だ。
美咲とも仲良くしてくれていたし、なにより僕の絵を好いてくれる、大切な人。

僕は感情によって絵の表現が変わるため、先生や友達に「いいときはすごいんだけどなぁ…」と溜め息をつかれることも多い。
だけど、彼女はどんな絵でも好きだと言う。
それが僕にとって最大の救いだった。

「大橋、お前なぁ…」

「別になんもしてねぇって、マジで!」

「早苗ちゃん、僕のとこ来れば?」

「あ、それいーかも」

「てめっ、佐倉!」

居心地がいいのは、二人のおかげだ。
あえて美咲の話題を避けてくれている。
今の僕にはありがたかった。