つまり、僕は"さめて"いるのだ。

美咲への気持ちから。
美咲からの想いから。
叶うはずのない、夢から。

自分がこんなに冷たいとは思わなかった。
いつも一緒にいた美咲を裏切るようなこの感情を、僕は必死に押さえ込んだ。


「…いやだなぁ」

「しょうがないだろ、まだ子供なんだし」

「……勇人」

美咲の声が低くなった。
低いといっても、男の僕からすれば十分高いのだけど、聞いたことのない声色だった。


「どうして行くなって言ってくれないの?」


瞬間、周りの空気が凍る。
一番触れてほしくなかった話題だった。

「ねぇ、どうして?」

「それは……」

「勇人は本当にあたしが好き?」

「……」

その問いには答えられなかった。
好きだと言えばいいのだ。
黙らずに、好きだと言えば、よかったのだ。

「…っ、もういい…!」

走り去る美咲を、追うことすらしない。
そんな自分が、ひどくちっぽけで、情けなくて――なにかが、音をたてて壊れた。