「ばいば~い。またねー」

「さようならー。姉をよろしくどうぞー」

ファミレミレスからふたつ先の信号で、わたしたちはみんなと別れた。

方向が逆でよかったと、そのとき心底ほっとしてしまった。
別に嫌いというわけではないんだけど、優喜相手にきゃーきゃー言ってる集団に、これ以上つきあいたくない気がしたのだ。

「ほら、ヒナ。てーふりなよ、クラスメイトでしょーがー」

そう言って、わたしの手をとる優喜。

あのね、弟よ。あの子らはアンタしか見てないから、大丈夫だって。

全く、極度の八方美人だね、これは。

ある程度離れるまで離れたので、わたしは反対方向を向いて歩き出した。

それを見た優喜は、最後に大きく手を振るとわたしの後ろにさっとついてきた。

「なんだよ、ヒナは愛想悪いな。4月からそんな態度だと、いじめられるぞ」

「ご心配どうも」

生意気な。アンタが、タダ単に愛想いいだけでしょうに。

「誰か気に入ったの? 付き合ってみれば」

わたしは疲れきっていたので、投げやりに言った。

「えーいいよー。好みじゃない。おれ、ヒナのためにと思って愛想ふりまいてるのに、なんだよその態度ー」

ぶーっとすねる優喜。そういう態度は可愛いのにな。

「はいはい、ごめんねぇ、駄目な姉さんで」

「まったくだ」

可愛くない……!

「そういえば、何で学校に来たか聞いてなかったけど、どうしたの?」

すっかり忘れていた。
何か、用があったから、わざわざ高校に来たのだろう。

「あーそうそう。今日さ、父さんも母さんもいないじゃん。だから、おれが夕飯作るからさ、一緒に買い物しようよって誘いに来た」

「あ、そっか。お母さん夜勤だっけ」

わたしが、近くの学校を選んだ、我が家の事情。
たいしたことは無い。
両親が共働きだということ。

そんなわけで、弟ひとり残して置いたらいけないと思った母が、

「高校までは家の近くにいきなさい」

という事をわたしに決定付けた。

とくに反論もなかったので受験勉強をがんばったけれど、今では後悔している。

「ヒナは何食べたい?」

「ドリア!」

わたしは即答した。