一刻も早く、このバレンタインモードから逃れたかった。
俺は、昼休みのチャイムが鳴ると同時に、鞄に貰ったチョコを詰め込み、中庭へ出た。
一面が芝生で、花壇に花が咲き誇るこの場所は、俺のお気に入りだ。
今日は珍しく日差しが暖かい。
俺は、温かくなったベンチの上で横になり、目を瞑った。
向かいのベンチで、寄り添うカップルたちも。
チョコレートを片手に走り回る、女の子たちも。
花も、緑も、木も、草も。
全てのものが、視界から消えた。
でも、聞こえてくるものまでは消えなかった。
俺の耳は、すぐにあいつの声をとらえた。
愛しい、ユキの声を。

