実際は、体面と言うより、それがばれたときに起こる現実的な危険性を慮っての配慮ではあると思う。
あの人は決して、面と向かってそんなことは言わないけれど。

否、もしかすると、俺に告げていることの方が嘘であるという可能性すらあった。
正体不明のあの人は、「敵を騙すにはまず味方から」の動く見本のような人でもあるのだから。

『俺に任せてください、なんとかします。
また、連絡しますね』

言いながらもう、考える前に教室を飛び出していた。

学校の駐車場、来客用スペースに赤城が既に車を止めてくれていた。

『お嬢様の件、お聞きしました。
姐さんより、次期総長を本部にお連れするよう言付かっております』

赤城は俺が口を開く前に早口でそう告げ、アクセルを踏み込む。

『……そう』

なんでまた母上が絡んで来るのか。
しかし、赤城に文句を言っても仕方がない。このでたらめな世界の中に、ほんの少しだけある秩序を、俺の我儘で破らせるわけにもいかなかった。

舌打ちしたい衝動を呑み込んで、都さんへ電話をかける。