「行って来ます」

玄関に行くと、何故かそこにお兄ちゃんがいたので声を掛けてみる。
ふわり、と。
お兄ちゃんが甘いマスクで微笑んだ。

「一緒に、ね」

……?

わたしは言葉を失う。
だってお兄ちゃんは高校に行くんじゃないの?

首を傾げて動けないわたしの手を勝手に取る。

「連れないですね。
ほら、一緒に登校するなんて恋人の定番じゃないですか」

「ええっと。
それは、二人が同じ学校に通っている場合じゃないの?」

目を丸くするわたしのことなんて、お構いなく歩いていく。
引きずられる前に慌てて足を動かす。

「だって、ほら。
お兄ちゃん遅刻しない?」

「構いません」

「えー、だって、ほら。
なんか変じゃない?」

お兄ちゃんは足を止めてわたしを見つめ、にっこり笑った。

「学校を途中で飛び出すのと、同じくらいには変かもしれませんね」

いやいやいや。
そういうことじゃ、なくて、ですね?

ふっと、お兄ちゃんの瞳が曇った。

「それとも、都さんは私と付き合っていると思われるのは嫌ですか?
清水が良い?」

「し、清水はダメっ」

ダメに決まってるわ。
あの人、学校でものすっごくモテるんだから。
そんなのが噂に上ったら、想像するまでもなく、怖ろしいことになるに決まっているもの。