「ごめんね、清水」

ようやくわたしから手を放し、必要な書類を整理しはじめた清水の背中に謝った。

「謝ることなんて無いですよ。
都さんのことは、大好きですから。
気が済むまで好きでいてくださって構いません」

振り向いた清水は、さっき見せたのと同じ甘い笑みをその口許に浮かべていた。

「キス、しない?」

「都さんが誘ってくれるまでは、我慢しておきます」

し、信じられない。
パパみたいっ!

再び書類の整理を始めた、そのスーツの端をぎゅっと握る。

「じゃあ、うちのクラスの中では私のことが一番好き?」

清水は振り向きもせずに、わたしの頭をくしゃりと撫でた。

「都さんって、独占欲の強い方だったんですねぇ。
大丈夫ですよ、小学生には興味ありませんから」

さらりと言った後、思い出したかのように「もちろん、都さん以外の」と付け加える。


もーお。
やっぱり、まだまだ駄目みたい。

わたしは清水から手を放した。

「やぁっぱり子供扱いなんじゃんっ」

「そうかどうか、試してみます?
今度は途中で止めませんよ?」

思いがけず艶やかな声が降ってきた。

「……お断りします……」


恋愛って、難易度高いのね。
わたしは清水に渡された書類を手に、一足早く教室に戻る。

答えの出ない、気持ちを抱えて。