だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)

そうして。
紫馬さんは幼女に連れられて倉庫の奥へと足を進める。

俺は都さんを抱えたまま動けなかった。

戻ってきた紫馬さんは、俺と視線を合わせるとふっと気が抜けたように笑い、ポケットからケータイ電話を取り出した。

その顔は、さっきまでの狂気に染まったものでなく。
いつもの、冗談を纏っただけのものでもなく。

敏腕な会社員を髣髴とさせるものへと変わっていた。

「お世話になっています。
紫馬です。
先生、少しお願いがあるんですが、××港A-3倉庫の脇に止めてある船の中に人身売買で連れて来られた子供たちを発見したんです。
だいぶ弱っているようですので、お力添えをお願いできれば。
もちろん、見返りは準備しております。
はい、よろしくお願いします」

訝しげな目で成り行きを見守っている俺に、悪戯が見つかった少年さながらの顔で笑い返してくる。

「俺の母校医学部の権威ですよ。
名前を出せば、誰もが知っている有名人です。
そんなに心配しないで下さい。
この後は専門家に任せましょう。
この責任を取らせるために、東野は生かしているんですから」

さらりと彼は口にするその笑顔のどこからも、何かを企んでいる様子は漂ってはこない。

それほどに、腹黒い男なのだ。