「記憶、消したんですよね?」
意識を失っている都さんの髪を撫でながらそう問う。
紫馬さんは冗談めかして片目をつぶる。
「もちろんですよ。
でも、まぁ、清水は全てを知らないほうが良いのです」
旧友を思いやる言葉なのか、それとも他に深い企みでもあるのか。
紫馬さんの、楽しそうな笑顔からは真実など読み取れない。
「ミヤコ、大丈夫?」
ふいに。
足元から、タガログ語が聞こえてきた。
よれよれになった幼子が、必死で都さんを見ている。
紫馬さんが視線を合わせるために長い脚を折ってしゃがんだ。
「ミヤコは大丈夫。
お嬢さんはどこから来たのかな?」
「皆と一緒に、船に乗って」
すうと。
紫馬さんが瞳を眇めたのが分かる。
空気の色が、一段重くなる。
「……皆は、何処にいるの?」
「あっちの船に、乗せられてるわ。
とても汚い。途中で死ぬと、海に捨てられる。わたし、あの子を連れて逃げ出したの。
……でも捕まっちゃって」
紫馬さんが、その手のひらで少女の頭を撫でた。
「もう大丈夫。お兄さんに任せなさい」
それにしても、流暢にタガログ語を喋るものだと感心してしまう。
それから、人形のように倒れている小さな男の子に今度は北京語で何事か話しかけていた。
意識を失っている都さんの髪を撫でながらそう問う。
紫馬さんは冗談めかして片目をつぶる。
「もちろんですよ。
でも、まぁ、清水は全てを知らないほうが良いのです」
旧友を思いやる言葉なのか、それとも他に深い企みでもあるのか。
紫馬さんの、楽しそうな笑顔からは真実など読み取れない。
「ミヤコ、大丈夫?」
ふいに。
足元から、タガログ語が聞こえてきた。
よれよれになった幼子が、必死で都さんを見ている。
紫馬さんが視線を合わせるために長い脚を折ってしゃがんだ。
「ミヤコは大丈夫。
お嬢さんはどこから来たのかな?」
「皆と一緒に、船に乗って」
すうと。
紫馬さんが瞳を眇めたのが分かる。
空気の色が、一段重くなる。
「……皆は、何処にいるの?」
「あっちの船に、乗せられてるわ。
とても汚い。途中で死ぬと、海に捨てられる。わたし、あの子を連れて逃げ出したの。
……でも捕まっちゃって」
紫馬さんが、その手のひらで少女の頭を撫でた。
「もう大丈夫。お兄さんに任せなさい」
それにしても、流暢にタガログ語を喋るものだと感心してしまう。
それから、人形のように倒れている小さな男の子に今度は北京語で何事か話しかけていた。


