わたしは身体を起こす。

入り口では、白いスーツを纏ったお兄ちゃんが感情一つ表すことなく硝煙の上がる拳銃を下に向けているところだった。

倉庫に漂う暴力的な残響音と、硝煙と血の混ざり合った匂い。
わたしはそこで気がついて慌てて後ろに飛びのいた。
この四角い顔の男が倒れたときには、血の匂いがしなかったのだ。

……防弾チョッキ?

ゆらり、と。
撃たれたはずのデカイ男が立ち上がる。

倒れた拍子に口でも切ったのか、ぷっと真っ赤な血を床に吐いた。

そいつがまるで獣のようにわたしに手を伸ばす。
躊躇う間もなくわたしは、後ろから抱き上げられていた。
まるで気配すら感じさせず、誰かが私の後ろに回っていたのだ。

同時に、わたしを抱き上げたその人がナイフを投げる。
間違いなく、眉間をめがけて。

しかし、そいつはまるで手品でも見せ付けるかのように、自分の目の前でナイフの刃を掴み、動きを止めた。
ぽたり、ぽたりと紅い血液が男の大きな手を伝ってコンクリートへと流れていく。

バァンっ

三度目の乾いた音。

びしゃぁと。
男の頭が目の前で破裂した。

飛び散る脳漿。
転がる目玉。
だらんと、だらしなく伸びきった紅い舌。

それを、目の当たりにしたような気もする。

が。

直後。
わたしを抱き上げていた人が大きな手のひらでわたしの目を覆った。

「都ちゃんは、何も見てないよ。
パパが助けてあげただけ」

暗示に似たその言葉に、縋るように頷くと、世界は再び暗転していく。
同じ黒でも、優しい黒もあるのね、と。
変な気持ちに染まりながら。