「清水は忙しいんだから、あまりわがままを言って困らせてはいけませんよ?」

「忙しいの?」

ポーカーフェイスの整った顔から、本当の気持ちを読み取るのは難しい。
見上げた清水はぽんと、わたしの肩を叩いた。

「そうですね。
少しやらなければならないことがあるんです」

言われた途端。
心臓がぎゅっと痛くなって、わたしは清水のスーツを掴んでいた。

「どうしました?」

降りてくる優しい声にどぎまぎしてしまう。

「ううん、あの」

どうしよう。
何か言わないと、何か――。

「二日も傍に居てくれてありがとう」

お礼なんて言い慣れてないので、視線を逸らして呟くようにしか言えない。

ふわり、と。
大きな手のひらがわたしの頭に降りてきた。

「とんでもない。
もうしばらく家に居て、完璧に治してください。
次の日曜日はもう、試験なんですから」

「ねぇ、また勉強教えてくれる?」

「ええ、もちろん」

なんてことない会話が、こんなに胸をときめかせるのは何故なのかしら。
抱きつきたい、という衝動をぐっと飲み込んで手を放した。