お兄ちゃんは困った顔でわたしに近づく。
だから、わたしはお兄ちゃんが近づいた分だけ後ろに下がった。

何のパラドックスだったっけ、これ?

とにかく、お兄ちゃんとわたしの距離は決して縮まらないはずよ☆
わたしって天才!!

……ってはずだったのに。

ぽおん、と。
わたしの背中を誰かが叩いて、人の背後に壁を作ってしまったの。
もう、作戦台無しじゃない!

「え?」

わたしは驚いて振り向いた。

「後ろ向きに歩くと危ないよ、ハニー」

年末年始、一度も顔を出さなかったパパがちょっと疲れた顔でそこに立っていた。

「あ、パパ」

……パパに縋ってもなんとなく危険な感じがするんだけど。
まぁ、お兄ちゃんよりいっか。

お兄ちゃんのことは『大嫌い』なんだから。

「明けましておめでとう、都ちゃん」

あ、でも。
ほっぺにちゅうするのは本当に止めて欲しいんですけど!

「おめでとうございます、パパ」

わたしは腕の中から逃げると、丁寧にお辞儀して見せた。

どーせ、大人のはしごを中途半端にのぼってしまった女ですよ、わたしは!
なぁんていう、皮肉を心の中一杯に詰め込んで。