「な、何やってんですか!?」


「ほら、これ見てみ…」


そう言ってリコさんは僕に胸の横を見せた。


そこには傷口がはっきり見てとれた…


しかし、それを見た僕の反応は、やはり健全な中学生男子のものだった…


ぐ、ぅぅうすみませんすみません、えーい、九々を唱えるぞーいんいちがいち…


「でも、なんでリコさんに傷口があるんですか?」


手術するのはアコさんのはず…。


「あー、私バカだから、アコにしてやれること、思いつかなくてさ、あいつが手術したくないってゆーから、つい切っちまった」


笑いながらリコさんはそう言ったが、アコさんにたいする愛情が半端ないものであることがよくわかった。


「そういえばリコさん制服ですよね?仕事はいいんですか?」


「あ、今日ほんとは休みなんだけど、アコ手術だから…」


「あ…」


やっぱりアコさんは存在するんだ…


「じゃあ私、亜子の手術室に行くね、いつ、何があっても駆け付けられるように、服も着てきたし」


「あの、僕は?」


僕はアコさんのお見舞いに来たんだからここで帰る訳にはいかない。


しかし、リコさんは頑として僕に帰るよう命じた。


僕は必死に食い下がる。


「これ」


といってリコさんに差し出した、メールをプリントアウトした紙には、この病院の詳細が書いてあった。


「アコさんも僕に会いたいんじゃないかと思ってた…でもわからないけど」


リコさんはその紙の上部をとんとんとボールペンで指しながら言った。


「そこ見てみ、アドレスアコのとちゃうでしょ」


「あっ!?これって…」


「そう、わたくし莉子様のアドレスなんです!あなたに会いたかったのは私だよ」


「えっなんで?」


そう問い掛けるとリコさんは…とても悲しいとも切ないともとれる表情をした。


僕はそれ以上何も聞けなかった。


ともかく、少なくともアコさんはあの手紙でバイバイのつもりだったんだ晋也兄ぃと。


僕はパソコンの入ったリュックを背負い、立ち上がった。