「...ぇ?」

「俺、ずっと先輩のことが好きでした!」

松森愛里は信じられないという顔で肌寒い風が吹く中あまり目立たない校舎の裏に立っていた。


「あの...人違いとかじゃ..」


同学年の中でも目立つほうじゃない、ましてや他の学年に知られるような人ではないはず。

ましてや告白なんてしたこともないしされたこともなかった。


今までは…


「違います!俺がまだ部活に入ったばっかりのとき…」


─六ヶ月前



「そこの1年!ボールとってこーい!!」


ゴールをはずしたサッカー部の二年、麻村由貴の先輩の声がグランドに響いた


「はい!!」



由貴はサッカーボールを追いかけるがどんどん距離が広がっていく


やがて速度がおちたかと思えば花壇の前にかがみ込んでいる女子生徒に当たってしまった


「すいませ…」


その生徒は心地良い日にてらされ長いまつげのついた目を細めて嬉しそうに花壇の中を見つめていた

その姿に由貴の胸はドクンと脈を打った


「あの…何見てるんですか?」


女子生徒はいきなりの背後からの声に驚きバランスを崩してしりもちをついてしまった


「あ、ごごめんなさい…」

謝る理由もなくついつい謝る姿におかしくなり由貴は笑った

そんな彼を見て安心したのか女子生徒は優しい口調で言った


「今日久しぶりにここに来てみたら花が咲いてたから見てたの」

先程目の前にある花に向けられていたのと同じ嬉しそうな表情を由貴に見せた

「先輩…ですよね?」

「たぶん。私二年だから」

その瞬間、柔らかい春の風が吹いた

この場所にも。

由貴の心にも。



.