『で?イケメンはこんなとこで独りか?どうした?』

『家出…してきた』

『わははー!!なんだそれは?親とでも揉めたか?』

『親…なんてとっくに…いない』

『…そうか。それは悪かったな』

『別に…今更平気』

おじさんは小さく笑う。


『イケメン?!名前は?』

『ひろと…』

『字は?』

大斗は何も言わずにその辺の枝を拾って地面に名前を記す。


「大斗」と。


『大きいに…これは、北斗七星の「斗」か…。ケンシロウか?いやいや、実に良い名だ。親に感謝だな…』

『…』

『まぁいい。俺は山崎豊次郎(ヤマザキ トヨジロウ)だ。豊さんとでも呼んでくれ。よろしくな』

そう言って手を差し出す。

大斗がきょとんとしていると、豊次郎は彼の手を取りブンブン振った。

そして離してから


『大斗?全く面識ないからこそ話せる事もあるぞ?』

大斗を見据えて笑い

『まぁ呑めや』

ビールを開けて渡す。


辺りの人が、段々と減って来る神社の片隅。


『あの可愛い彼女と喧嘩か?あー…?それとも今時の子はもう違う彼女か?』

大斗は黙ってビールを呑みだした。

『乾杯!!』

豊次郎はそう言って大斗に続く。






『彼女って…アイツは始めから彼女なんかじゃない…』


しばらくすると大斗は口を開いた。

『そうなのか?正月に見た時、えらい初々しくて、つい、たこ焼き1つしかあげなかったのに。あの時はまだ付き合ってなかったのか?』

『はぁ…?』


まだも何も、何も無いっつーの…

なにを言ってんだ?このおっさん…


そんな大斗に豊次郎は続ける。

『あの時別にいくらでも、たこ焼き出せたんだけど、お前等を見ていたらついお節介したくなってね。だからワザと串も一本しかあげなかったんだ』

とサラリ。


『俺は子どもが居ないから憧れてたんだよな。息子と…なんだ?あれだ、あれ。「恋バナ」すんのがな』

そして大きな口をにっこりとさせて笑う。


『俺…』

それを聞いて大斗はゆっくりと口を開いた。