気まずい空気を更に煽るかのような、妙に静まり返った留守電のアナウンスの声。


あたしは、動けずに固まっていた。

早く切らなきゃ…

家の電話を鳴らす相手は限られている…

大斗がいる、切らなきゃ…


〈夕陽ちゃん?起きてる?居ないの?〉


留守電の録音に繋がりそのまま喋りだす。


やっぱり…


声色で電話相手が大斗にもわかったらしい…


『あっ』


と小さく呟いていた。


切らなきゃ…と思うのに、放心して動けないっ…


すると…


大斗は何を思ったか立ち上がり電話を取ってしまった。


そして、あたしを見据えて受話器を差し出す。

受話器の口元を押さえて


『早く喋れよ』


と、とても冷静に言った。


〈もしもし?夕陽ちゃん?もしもし?〉


受話器からは、名前を呼ぶ声がひっきりなしに聞こえる。


『早くしろ!!』


大斗の怒鳴り声にやっと身体が動いて受話器を手にした。


『お母さん?』


〈夕陽ちゃん。よかった。やっと出たのね…〉


と呆れ声。


大斗はあたしのすぐ隣、受話器のすぐ真横に座った。

会話は大斗にも聞こえている事だろう。

大斗は…あたしの頭をポンポンして、小さな声で


『落ち着け』


と言った。

その優しい笑顔に…

不思議と物凄くホッとしてしまった。


『ごめんなさい。今起きたの…』


〈今春休みよね、最近たまにメールくれるけれど、やっぱり電話は繋がらないし…家にはちゃんと帰っているの?〉


『はい。帰っています。なんだかんだ…でれなくて…ごめんなさい…』


あんまり親とちゃんと会話したことなくって…

どんなふうに話していいか分からないよ…


〈一度、こっちにいらっしゃい。5月の連休中にでも…〉


母親の落ち着き過ぎた喋り方が夕陽の頭の中に渦巻く。


何て答えればいい…?

あたしは自然と大斗を見ていた。