「あんたそんなデカい声出せるんじゃないの?!この咲様にブスなんて言うとはいい度胸だチビ!!身のほどを知れ!!」


しばらく2人はマスターと雪那の前でギャァギャァやりあっていた。


「咲、最近表情が変わったな?あの2人、面白いじゃないか?」

「そうでしょ?あたしの読みは当たったわ」

2人は笑いながらそんな大斗達を見守っていた。


そして、咲に絞められてもがいている大斗にマスターは不意に言った。

「大斗くん、これからもっともっと好きなことをしたらいいさ、思ったことをすればいい。そうして、いつか何かに気付けるようにね」


咲は手を放し、


「そうよ。もっと喋んなさいよバカチビ。そっちのほうがあたしも楽しい」


肩をゼーゼーさせながら言っていた。


――――――――


この出来事を夕陽に話すわけではないけれど、

大斗は雪に降られながら空をふと見上げて思い出していた。


フフッ・・・


思わず思い出し笑い。


『―…!!ねぇ?!ひろとっ?!!』

『おゎっ!!夕陽、居たの?忘れてた』


『居たの?ってあんた、人ん家に来て忘れないでくれる?何にやけてんの?きもちわるっ』

『うるせぇ…』

と少し赤くなって大斗は小さく呟いた。


『お前は…冷蔵庫みたいだ』


そして何を思ったのか、ふわりと笑って突然言った。


『はぁ?何それ?』


『つい在るのを忘れてしまう』


クックックッと独り勝手に大斗はツボに填まっている。


『あのねぇ?あたし人間なんだけど…物扱いしないでくれません?しかも乙女を冷蔵庫に例えるって失礼じゃない?』

『そうか?俺には最高の誉め言葉なのに♪』


雪の冷たさももう感じなかった。


不思議…


『スイートブルーに初めて行ったあの日、病院入ってから、咲以外と初めてまともに話したのがこんな雪の日だったんだ。俺ずっと学校も行ってなかったし』


玄関が開いたまま大斗は話を続ける。


『「こんな雪の日はね、何か新しい事が起こるんだ。粉雪が瞳に見えない"何か"を運んでくる。その"何か"を見つけられるかは自分次第なんだよ。」ってあの日マスターが言ってた』