もう一つの【ゴル裏】〜いつかの公園のベンチで〜


僕は毎日一通以上のメールを送り続けていた。読んでいるのかさえ分からないメール。
僕はこの辺ではっきりさせたかった。
その旨を友人に伝え、新潟戦で落ち合う事となっていた。

僕にも負けられない試合が始まる。

後悔だけはしたく無かった―――。



8月3日(土)晴 19:00 Kickoff

第22節 大分−新潟 ビッグアイ


試合開始2時間前。僕は久しぶりにビッグアイを訪れた。
トリニータの試合に限って言えば4ヶ月振りである。
僕は高鳴る胸の鼓動と共にいささかの不安を抱えてやって来た。

ズボンのポケットには渡し損ねた指輪が入っている。
今日すんなり渡せるとは思っていないが、これは誰の物でもない。しぃちゃんの物だ。しぃちゃんの指のサイズに合わせて造った世界でただ一つの指輪。
僕はこの指輪が持ち主の手に渡らないのなら、ここビッグアイにでも置いて帰るつもりでいた。

既に開門していたゲートをくぐり、メインスタンドの端っこの席を二つ確保した。

後は友人からの連絡を待たなければいけなかった。

こんな気持ちでビッグアイに訪れた事は今までに無かった事だ。

僕は誰よりも緊張していただろう。



メイン2階ゴール裏寄りの端っこの席。
ここからはゴール裏の様子が手に取るように見えた。
席に座ってスタジアムを見渡しているとある事に気がついた。

これまでならまずバックスタンドの中央、A席寄りから埋まっていってたのに、今日入場して来る人達はゴール裏を埋めている。
決してゲームが観やすいとは言えないゴール裏から。

自分も一緒に戦いたいと言うサポーターが増えて来ている。
ワールドカップ効果か?それもあるだろう。
しかし、どんなに酷い試合をしても見捨てずに支えて来たゴール裏の主だったサポーター達の努力の現れだろう。
観ているだけじゃ詰まらない。一緒に戦おう。そんなサポーターが確実に増えている。

(´・ω・`)
(それなのに・・僕は一体何をしてるんだ・・)

身体中に鳥肌が立ち、何かが駆け巡る。

徐々に埋めて行くゴール裏を下に見て、僕は居ても立ってもいられなくなった。

(´・ω・`)
(ゴール裏に行こう!)