「こっちに来た頃は野菜の栽培なんて事は何も判らなくてね。土作りから農家の人に手取り足取り教わったんだよ。いろいろ教わっていくうちに、気が付けば夢中になっていたよ。何もかも忘れてしまうほどにね…。」 「何もかも…ですか?」 「ああ。」 僕の問いに頷きながら答えると、先生は再び手を動かし始めた。 「ところで…太一くん、将来は演奏家になるのかい?」 唐突な彼の問いに僕は一瞬ためらった。