彼が彼女になった理由(ワケ)

私の手に乗せられていた綾斗の手。
ゆっくりと退けられ、間を冷たい風が通った。

『俺ねー、自分が夏波の特別だと思ってた。』

少し間をあけ、綾斗が口を開く。

『夏波のお菓子、俺だけにくれるし。 去年のバレンタインだって俺だけだと思ってた。』

1年前のあの日の事、綾斗が口に出すのは初めてだ。
何もなかったように、次の日から綾斗は普段通り。
私も頑張って笑顔を作った事を覚えてる。

1年かけて、私達は友達に戻れたと思ったのに…

『…間違ってないよ。 綾斗の事、大事だと思ってる。』

あの時、魔がさしたからいけないんだ。
綾斗の弟の部屋なんか見なきゃよかった。
そしたら、今年も何も知らずにチョコを作ったのに。

『大事な友達? 大事な人?』

綾斗の声が妙に響く。

逃げたい。
帰りたい。
この場を立ち去りたい思いで涙が溢れそうだ。

『大事な…友達…』

だから、ねぇ?
早く帰ろう?






『わかった。』

しばらく間をあけ、綾斗が笑う。
良かった。
いつもの綾斗に戻ってくれた。

そう思ったのもつかの間。
綾斗は続ける。

『でも俺は夏波を友達と思ってない。』

この人は何度、私を突き放すのだろう。
恋愛対象に見られず、あげくの果てに友達でもなくなった。

私が何をしたというの?


『友達じゃなく。 ずっと女として見てた。』

一体、何を言っているの?