彼が彼女になった理由(ワケ)

ガヤガヤと騒がしい店内。
そんな中でも綾斗の声は真っ直ぐに届いた。

『もう誘わない。』

言葉の意味を理解するのに、あまり時間はかからなかった。

『そ、そだね… ごめん。』

私は女としてだけでなく、友達としても不要な存在になってしまったらしい。

傷付くな。
綾斗に期待しないと決めたでしょ?
綾斗の事を好きな私はもういないんでしょ?

二度と傷付かないために、綾斗を忘れたんでしょ?



駄目だよ…
こんなにもショックを受けてる自分がいる。

忘れてないよ。
忘れられないよ。

私…
まだ綾斗が好きなの?



『帰ろっか。』

情けない事にようやく出せた言葉は「帰ろう」の一言。
立ち上がる時に机についた手は微かに震えていた。

『2月14日、何の日かわかる?』

そんな私の手に綾斗は大きな手を重ねた。

震えを和らげる為の優しさか。
逃げ出さないための罠か。
どちらかわからないけど、綾斗の手は大きくて熱く…
そして少し硬かった。

『わかんないの? 女なのに。』
『わ、わかるよ。 バレンタイン…でしょ?』

周りのお客さんの視線が痛い。
今にも野次(ヤジ)が飛んできそう。

『バレンタイン。 俺にくれないの?』

いつもより少し低い綾斗の声。
なんだか少し怖いよ。
怒ってるの?

『バレンタインだけじゃない。 調理実習も。』
『そんなん… 綾斗ならいっぱい貰えるじゃん。』

そもそも、甘い物は苦手でしょ?
弟や友達に配っちゃうじゃん。

『バレンタイン、綾斗ならいっぱい貰えるよ。 ってか私の絶対に美味しくないし…』

美味しくないのに綾斗はいつも貰ってくれた。
だから安心してた。

でも、きっと私のも食べてなかった。
きっと皆のと一緒にして配ってたんだ。
ううん、マズイから捨ててたかも…

『もう、手どかして…?』

思えば思うほど、悲しみが沸き上がる…