「そういうことじゃないだろ!」


バンッと大きな音が響いた。

まったりと酔いが充満した空間の中でその音は銃声のように聞こえた。

カウンターからだ。

突然雄治がカウンターを平手で叩いた音だった。



「頭冷やせ」



雄治は立ち上がった。

そのまま振り返らず店を出ていく。

慌てた様子で絵里がかばんを掴んだ。


何も言わず絵里も雄治のあとを追った。

残された連中は緊迫した。


雄治が怒鳴るなんて。


新が何を言ったのかはわからない。


新を見ると何もなかったかのようにまたウイスキーのおかわりを受け取るところだった。


「井上、何したんだ?」


山本はあたしの腰から手を離すことなく周囲に話し掛けた。


「あいつ、奥野さん怒らせて。これからやりづらくなるんじゃないか?せっかく可愛がってもらってたのに、これで終わったな」

「そうそう、結構個人的に飲んだりしてさ、あいつ親会社に引き上げられるの狙ってたんだろ?勝負に出ようとして失敗したんだ」

「あいつ、最近なんか飲み方も変わってるし、仕事ができてもこういう場所で失敗したら意味ないよな」


口々に発せられる無責任な言葉、結局ライバルが減ったことを喜んでる。

他人を蹴落として自分が登る、オトコたちのいやな面が垣間見えた。

新はカウンターの向こうを見つめたままこちらには目を向けようともしない。