二週間の休暇の最後の夜、あたしはクローゼットを開けた。


つい二週間前までの洋服は一着もなくずらりと新品の服が掛かっていた。

髪を切ったこともめがねを外したことも夫は気付かなかった。


あたしも言うつもりはない。



今までと同じように食事や夫の身支度は完璧にこなした。

毎日深夜に帰宅する夫はいつもふわりと甘い香りを漂わせていた。

多分これまでも夫からはずっと漂っていた。

隠そうともせず。


こんなにも自己主張する香りなのにあたしは全然気にも止めていなかった。

今のあたしには残り香だけでわかる。シャネルのアリュール。

夫はあたしが気付くとは思ってない。


同じように夫はあたしの変化には気付いていない。


窓の外を眺める。


熊野古道でみたのと同じように月が美しく光っていた。


明日は新に会える。


ただ、かわいいともう一度口にしてほしい。

自分があたしを抱いたことはミスではない、そう思わせたかった。


あたしは新のことが好きなんだ。



あたしは鏡に向かって口角をあげた。


少しでもかわいく見えるように。

月はあの日と同じように冷たい光を放っている。


カーテンを勢いよく締めあたしは眠りについた。