自宅に戻った。


出かけたときと何も変わっていなかった。

美樹が使ったコーヒーカップも山盛りの灰皿もそのままだった。


コーヒーカップには濃いルージュのあとが残ってる。

美樹は疑いようもなくオンナだった。


迷いのない強いオンナ。


リビングにかけられた鏡をみるとあたしはベージュのツインニットにゆったりしたコットンパンツをはいていた。

体型を隠す洋服。

通販で買ったカッティングも縫製もなんの変哲もない無難な洋服。

ニットには細かい毛玉が浮き家で洗濯を繰り返した洋服独特のはりのなさが目についた。

美樹は見るからに高そうなワンピースを着ていた。

あたしが見る限り美樹には隙がなかった。

そうやって生きてきた人なんだろう。

確かあたしと同じ歳。同じ時間を歩んできてあたしと美樹はまったく異質の人間として出来上がっていた。

美樹に言われたとおり、あたしは洋服にお金をかけてこなかった。

夫もあたしがどんな洋服を着るか、どんなジュエリーを着けるかについて何も言ってはこなかった。



つまり。



あたしはオンナじゃなかった。



考えれば考えるほどあたしは迷う。


そして、自分が惨めになって何も見えてこなかった。




ーオトナなのに。自分のこと何もわからないー



洋服を脱ぎ捨ててあたしは裸のままベッドにもぐりこんだ。