ホテルの部屋は機能的。

シングルルームとなればなおさら。

ただ、眠るための部屋。

ホテル独特の明度を落とした照明があたしを落ち着かせる。


新が部屋を覗き込んだ。


「俺の部屋とまったく同じつくり、ただし左右反転してるけどね。ゆっくり眠りな。君ヒールで山に登って疲れたんだね」

「井上さん」

「何?」

「変なところ見せて・・」

「何も変じゃなかったよ。むしろ俺しか知らないゆかちゃんがひとつ増えて俺嬉しかった。おやすみ」


新が出て行くとあたしはソファにどさりと体を投げ出した。

解放された足先からじわじわと疲れが登っていた。


恥ずかしかった。あたしは新に抱かれることを期待していた。


誘われたかった。それなのに・・。


壁際から水音が聞こえる。


新がバスを使う音。


この壁の向こうには新がいる。


あたしはベッドに身を横たえた。

小さくくぐもってテレビの音。


シャワーの音。



新を少しでも近く感じたかった。


さっきまで1ミリでも遠く離れたかったのに今あたしはこの壁がもどかしい。