月が高くなっていた。


新はあたしの手を引いて歩きだした。

11月の夜風はもうすっかり冷たくて新の手の温もりにあたしはくつろいでいた。

夫でも恋人でもなくただの同僚に過ぎないオトコに安心していた。



あたしを見てくれた、ただそれだけでこんなにも無防備に。



ホテルに着くと新はあたしを置いてフロントで手続きをした。

あたしはソフアに座ってこれから起こることに想いを馳せていた。


夫への罪悪感はない。

ただ目の前のオトコに気に入ってほしかった。



「お待たせ。はい、キー」

新は二つの鍵のうち一つをあたしに渡した。



「当日だからあんまりいい部屋じゃないけど」


あたしは新から顔を背けた。

何を期待したんだろう。

表情を読み取られたくない。

あたしは渡された鍵を見た。




1105室。



目をやった先に新の手の中の鍵が見えた。




1104室。





どうせならもっと遠い部屋で眠りたかった。



新から1ミリでも遠いところに逃げ去りたかった。


ベルボーイがあたしのボストンバックを取り上げた。