行くあてはない。


向かいの家の窓から猫がじっとこちらを見ていた。


見つめ返しても目を反らさない。

あたしはいたたまれなくて歩きだした。

大通りまで出ると流しのタクシーのドライバーがこちらを見ていた。

物欲しげに見える。

でも彼は自分の欲しいものに向かってアプローチしてるだけ。


どこに行くか何が欲しいのかすらわからないあたしとは違う。


普段気にも留めない視線が今のあたしには痛かった。



目が合うとタクシーは止まった。


あたしは一息に告げた。


「駅まで」