突然の来襲、

そして侮辱。


雨音が遠く聞こえるリビングで、あたしの存在は否定された。


妻、その地位さえあれば何も望まないと思ってた。

結婚さえしてしまえば全て変わる。

あのときそんなふうに思った。

誰もが踏むべき恋愛のプロセスから逃げてた。

あたしの結婚は勝ち取ったものじゃない。

戦わなかったつけが今まわってきたということ?







どれくらいの時間が経っただろう。




窓の外を眺めると激しく降っていた雨はあがりうっすらと朧げに虹の橋が架かっていた。


あたしはボストンバッグを取り出した。


独身時代に買ったピンクのバッグ。

まだ友達みんなが身軽だった頃、このかばんでいろんな場所に行った。

角が擦り切れて、色褪せたボストン。

クローゼットの中に思い出と一緒に押し入れたまま、そこだけ時間が止まっていた。



そのかばんに財布と一冊の文庫本だけを入れて玄関の鍵をかけた。