雄治の結婚式は盛大だった。

絵里が入社するより3年前のこと。

学生時代からの付き合いだという奥さんはおなかに赤ちゃんがいた。

膨らみ始めたおなかを誇らしげに抱えた奥さんがうらやましかった。

雄治も「固く貞操を守る」と誓っていたはずだ。



「ぼーっとして。先輩!チキン冷めますよ」

目の前にぎとぎとと脂ぎったチキンソテーが置かれていた。



「雄治さん、私が入社した時から好きだったって。私も雄治さんのこといつ落とそうかと狙ってたんですけど親会社に行っちゃったし、チャンスないなあと思ってたら昨日じゃないですか?ここはゲットしとかないと次はいつチャンスがくるかわかんないですからね」


絵里のチキンは細切れにされて言葉の隙間に口に放り込まれていた。

あたしはやっとチキンにナイフを入れた。



「で、新ちゃんは?口説かれなかったんですか。先輩口説かれても気づかなかったんじゃないですよね。なんかその方面は疎そうだし」

「ただ、お茶飲んでタクシー、乗っただけ」

「お茶!いい大人がお茶ですか?どっかのラウンジでアイリッシュコーヒーとか?」




自販機のココア。




それはオトナじゃない。


少なくとも絵里の中では。