「人事面談、といっても堅苦しくはないから。西田さん、勤続10年目だったよね。異動の希望はある?」

部長はあたしにコーヒーを勧めてくれながら話し出した。

「異動ですか」


湯気のたつコーヒーが部長とあたしの距離を隔てる。


「そうおっしゃっても私は結婚しておりますし、主人の会社の都合もありますからこのままここにいられたら、と思っております」


部長はコーヒーをすすりながら何気なく言った。

「お子さんの予定は」


当然、聞かれることだった。
結婚して1年。
口に出すとも出さずとも圧力となってのしかかっていた。
でも、あたしには・・・。


「急に辞められると人員補充の関係もあるし、予定だけでも決まっているなら会社に報告しておいてほしい」

苦い苦いコーヒーを飲み干した味がした。



赤ちゃん、か。



「あと、勤続10年の休暇、来週から好きな時に取ってかまわないから。申請するように。あ、それから、ないとは思うけど不満は?」


なんで「ない」と思うのだろう。

結婚し仕事も持ち何でも手に入れているように見えるのだろうか。

あたしが抱えている不満をこの人にぶちまけたら解決してくれるのだろうか。


あたしは目の前のコーヒーには手をつけずに答えた。



「ありません」