「西田さん」

斎場を出ようとするあたしを雄治が後ろから呼び止めた。


「出棺まで見送ってやらないのか?」

「うん、あたしの仕事はもう終わりだから」

「それに、西田さん。退職するって本当か?」

「耳が早いんですね。まだ部長にしか言ってないのに」

「きみがいなくなったらきみや絵里をかばった新の気持ちはどうなる?考えなおしてくれよ。それに絵里だけじゃ、事務は回らない」

「絵里ちゃんは、雄治さんが思うほど頼りなくもないわ。立場が変わればやることも変わってくるから」

「よく考えて決めたことなのか?」

「そう、もう退職願を提出するだけ」

「絵里にもまだ伝えてないのか?」

「絵里ちゃんには雄治さんから伝えて。雄治さんと絵里ちゃんは少し話す時間が必要だと思うから。雄治さん、絵里ちゃんから一方的に別れを切り出されたんでしょ。許されない関係だってはっきり決着をつけるのは必要なことだと思う」

「はっきり言うようになったよな。西田姉さんは・・。外見だけじゃなくって話し方とか、目線とか俺がこの会社にいたときよりずいぶん強くなったよ」

「そうかな。そうだとしたらあたし、もう迷わないことに決めたからなんだと思う」



黒い喪章をつけた親会社の若い社員が雄治を呼びに来た。


「じゃ、ゆかちゃん。俺はあいつを運んでやらなきゃいけないから」




雨が上がった。

曇り空は変わってないから雨あいのほんのすこしの谷間なんだろう。


あたしは斎場をでて駅へと向かった。


遠くでクラクションの音が聞こえた。





あたしと新の旅立ちの音だ。