パステルカラーのロビーを走り抜けた。

古いエレベーターが来るのを待ちきれずに階段を駆け上がる。

すれ違う人たちが何事かと眉をよせたけどあたしは気にしなかった。



407号室の前で呼吸を整える。

病院のドアノブは包帯が巻かれてて、ドアが急に閉まっても大きな音を立てないよう考慮されていた。

あたしはドアを閉めて4人部屋の一番奥。新が眠るベッドに近づいていった。

カーテンが閉まっていてあたしはもうひとつ息をついた。

細くカーテンを開ける。

ピッ、ピッ、と規則的な音を立てる機械のランプが見えた。

その機械は新の口元の酸素吸入器のマスクにつながっていた。

喉の横の白いガーゼがはずされてざっくりと切られたその部分に埋められたコードはあたしには分からない機械につながっている。

点滴の針が細くなってしまった腕には不釣合いなほど太く見えた。


新は目を閉じたままあたしの気配には気づかない。


看護士があたしの後ろから入ってきてカーテンを開けた。


「井上さーん、点滴のパック代えますね」




あたしはカーテンの横で呆然と立ちすくんでた。


声をかけられて、新がうっすらと目を開けた。