絵里はあたしの手をつかんだ。


「先輩、新ちゃんのいうこと信じたんですか?」

あたしの手をつかんで立たせる。あたしより10センチは背の高い絵里は力も強くてあたしはよろけそうになった。


「あれが検査入院の人なんかじゃない。先輩、ほんとは分かってるんでしょ?」


華奢なヒールがきしむ。

転びそうになったけどあたしは絵里につかまってなんとかとどまった。


「検査入院検査入院って必要以上に繰り返してましたよね。あんなふうにやつれて強がって、そんなわけないじゃないですか。それに先輩もなんで新ちゃんに話してあげないんですか。馬鹿みたい」


絵里はあたしを支えたまま手を離さずに言った。

「私、ずっと知ってた。2人が気にしあってること。でも新ちゃんは私をかまうから話せなかったんでしょ。新ちゃんもそうです。ずっと先輩のこと想ってたくせに素直にならなくて」


絵里の右手に抱えられたバラの水滴があたしのスーツにしみを作っていた。


「先輩、気づいてないでしょ?」


水滴がスーツの中にまでしみこんで冷たい。