「ゆかちゃん」


急に名前を呼ばれてあたしは新を見た。


「ゆかちゃん迷惑かけたよね。情報漏洩のこと。あれさ、ちょっと大人のサイトいじってたらさ、そこから入られちゃったんだよね」


あたしは新の弱い目の光の奥に強い意志を感じてた。



「検査終わって退院したらまたココア一緒に飲もうな」


ほころぶように微笑んで新は体をベッドに戻した。

その顔はあたしが見てた新のおどけるような笑顔でもあたしをにらみつけるような怒りを含んだ顔でもなくて、あたしはこのまま新がふぅっと立ち上っていくような錯覚にとらわれた。


「悪い、絵里。今日、俺疲れちゃったみたいだ」

「じゃあさ、今度また来るからそのときはお菓子用意しておいてね」

「おぅ、今度来るときは連絡くれよ。俺、検査いっぱいあるからさ」

「じゃあね。先輩、行きましょう」


絵里は新に向かって勢いよく手を振って病室を出た。

ドアを閉めるとき、一度だけ振り返った。


「ばいばーい」


新はもう、小さく寝息をたてていた。