「俺がきみのことを想ったとしてもきみは絶対に旦那のところに帰る。俺の気持ちはどうなる?もてあそんで楽しむのか?俺は2番目は嫌いなんだ」

「どんなにきみが俺に媚びたって俺はきみのことが」



それ以上聞きたくなかった。聞く必要もないように思えた。


だから、新より先に声を発した。


「あたしはあなたが好きなの」


新はこぶしを握って壁を叩いた。鈍く重い音がでてひどく大きな振動を感じた。


「俺はやっぱりミスをしたんだ。あの時、熊野古道できみを抱くべきじゃなかった。
きみに期待を持たせたくなかったんだ」
 

「熊野のことだけじゃない。あの前からあたしの心にあなたが住んでた」


「違うよ。きみは俺のことなんか好きじゃない。勘違いしているだけだ」


「もう、はっきりとわかるの。あたしはあなたが好きなの。あなたを知って夫の横にあたしの居場所がないことも知ったの」

「俺を」

どん、と大きな音がした。
新はまた壁を叩いてゆっくりとそのこぶしを開いた。

手のひらを見つめたままなにかをつかむようにまた堅くこぶしを握りこんだ。


「俺にこれ以上かまわないでくれ」





「俺は、ゆかちゃんのことなんか好きじゃない」