「俺はそんなことがあったことも黙ってた。子どもなんかいらない。だが、これからもしかしたら必要になるときが来るかもしれない。欲しいときに生めない女だってことを知っていても俺は返品しなかった」


夫はどこか誇らしげだった。


「返品?」

「そうだ。欠陥商品だろ。家電だって自動車だって機能がついてりゃ高いに決まってる。だけど子どもを生むなんて基本機能だ。基本が欠けてる商品でも俺はそれでもいいとお前を養ってきたんだぞ。いつだって契約違反を理由に解除できたんだ。その上、会社も続けさせてやった。こんな心の広い夫がどこにいる?」


「もういいわ。よくわかったから」


「よし、わかったんならいい。年末で会社なんか辞めて来い。退職金も少しは出るだろ。これからは毎日俺だけじゃなくて俺の実家にもメシつくりに行ってこい。おふくろも歳だ。楽させてやりたい」




「わかったわ」


夫の目を見る。まっすぐ、そらさずに。





「この場所はあたしの居場所じゃなかった」






夫はただ無神経なだけだ。あたしを傷つけるために吐いた言葉じゃない。

やっかいなのは自分が悪いなんてこれっぽっちも思っていないこと。
妻に人格があるのに気づかないこと。
逆らう人間がいるなんて思い至らないこと。


そして。


何より悪いのは 学習してないこと・・・・


皮肉なものだ。こんなに話したのは結婚して初めてのこと・・・。