オトコたちはタバコを灰皿に押し付けると喫煙室を出て行った。

あたしは脚立の上から動けなかった。

きれいに施したネイルも開けたばかりのピアスも何もかもがむなしくなった。

目の前がぐにゃりとかすんで見えた。

がたつく脚立に注意しながら階段を降りる。

湯気を立てていたココアは冷え切って分離していた。

ダイヤのピアスをむしりとって、給湯室にあったカッターで爪を削る。

指が滑って刃が薄く皮膚の表面を傷つけピンクに染めた指先から赤い血が一筋流れ落ちた。

救急箱を開ける。

テープで思いっきりきつく傷口をしばり上げた。

血なんてどうせすぐに止まる。

こんなのたいした傷じゃない。



傷を負った心に較べれば。