「ね、由香里さん。聞いてもいい?あなたはなんで西田と結婚したの?」


美樹の意図がわからなくてあたしは言葉に詰まった。



「私が西田と結婚したのは打算だったわ。将来のある銀行員だからって親に言われたから。けど、あの人は仕事にばかり目を向けて私も」


美樹は少し上を仰いで続けた。

「隆太さえも見てはくれなかったわ。隆太が生まれれば変わると思ったのに。それなのに次から次へとオンナに手をだすばかりで」


冷たい風がごうと吹いて公園の落ち葉が舞い上がった。
風にのってあたしたちの座ったベンチの足元に積みかさなっていく。


「ごめんね。あなたに言うべき話じゃないわね」

美樹はかがんで足元の枯葉を一枚ずつ払った。


「じゃ」


立ち上がるとき美樹の髪がやわらかくゆれてあたしの鼻先を掠めていった。


息子の手を引いて歩いてゆく美樹は背筋がまっすぐに伸びて、スーツを着ているときよりも強くたおやかに見えた。