そんなのいいよ、と言いかけたはずの私は、一考してから、窓のほうを向いたまま答えた。


「…海」

「お、海?パーッと泳ぎに行く?」

「違う。泳ぐんじゃなくて、見たいの。浜辺から、海が見たいの」



海。


幼いころに一度行ったきりで、ほとんど記憶にも残っていない。


ただ、夕空を映してキラキラと金色に瞬(またた)く波と、わけもなく胸をよぎる寂しさだけは今でも鮮やかに思い出せる。


もう一度、見たかった。