「あれ、なぁにもしかして本当にご機嫌なのー?」

ロッカーから制服と、いつものギターを取り出しているとき、うっかり表情に出してしまったらしい。
ベテランバイトの妙子(たえこ)さんが、嬉しそうに俺の顔を覗き込んでくる。

あまり長くない黒髪を一つに束ねた、さっぱりとしたこの女性はシングルマザーで、俺より10歳も年上だが、あまり年齢差を感じさせない、むしろ年齢不詳の雰囲気があった。
客に自分の年齢を当てさせるゲームをすると、大抵若く見積もられるので気に入っている。

さらに10歳上の店長に気があるとかいう噂もあったが、実際のところはよく分からない。
俺は、単なる尊敬とか憧れみたいなものだろうと思っている。

なぜなら、このバイト二人も、店長も、そして俺も、ずっと音楽の道をそれぞれ一人で歩んできたからだ。

そして店長は、同じ道を目指す人間に機会を作りたいという思いで、この店を構えた。