ゼンは一足先にリアを馬に乗せようと手を差しのべる。

「結構だ」

リアは、その手を借りることなく、器用に馬に跨がった。

「……他の女より楽でいいよアンタ」

ゼンが苦笑する。
リアは少し意地悪く笑って、

「何なら私が手綱を取ろうか?」

と聞いた。
ゼンも、ニヤリとして、軽やかに馬に飛び乗り、

「それじゃあオレの格好がつかないだろ。お嬢さんはオレの腰でもしっかり掴んでいて下さい。さもないと……」

勢いよく手綱をひいて、栗毛の馬は一度高く鳴いて走り出した。

「振り落とされるぜ」

「貴様っ、いきなり走り出す奴があるかっ」

慌ててゼンにしがみついたリアが叫ぶ。
馬はどんどん加速する。

街が、どんどん遠ざかるのが見えた。

「どうした?黙っちまって」

「……いや……」

リアは街を見るのをやめて、誤魔化すようにゼンに言った。

「いい馬だな。王宮にいてもおかしくないくらいの名馬だ!」

「オレの相棒だよ。よく気の利くいい奴さ!」

ゼンは機嫌良く答えた。
リアも自分の馬を持っているので、誉められると嬉しいことを知っていた。

(……普通の少年のようだな……)

しがみつく背中に、親しみやすさを感じてしまう。
だが、今自分たちはとても異色の組み合わせであるのを思い出して、

(流されてはいけない……こいつと出掛けるのはこれきりなのだから)

と、心の中で静かに自らを律するのだった。