話し終えて、キリアはゼンを見つめた。
ゼンは何やら考え込んでいて、酒ダルに腰かけながら、じっと一点を見つめていた。

「お頭?」

キリアが、首を傾げる。小麦色の癖のある髪が揺れる。ゼンは顔をあげて、キリアに聞いた。

「リアトレーゼン公には妹がいんのか?」

それを聞いて、キリアの顔が急に曇った。
そして俯いて、ぽつりと呟いた。

「妹さんは、亡くなりました」

「……なんだって?」

「五年前、兄妹が乗った馬車が反乱軍に襲われた時に、リアトレーゼン公は助かったのですが、妹さんは崖の下に落ちたんだそうです……川に流され、死体も見つからなかったんだとか」

ゼンは、またじっと考え込んだ。

「今頃は、お美しくなられていたでしょうに」

「キリア」

頭に名前を呼ばれて、背筋を伸ばした。
見ると、ゼンはにっと笑った。

「ありがとよ、話してくれて」

感謝されたのがたまらなく嬉しくて、キリアは瞳を輝かせて首を振った。

「さて、じゃあちょっと出掛けてくるからよ。後は頼むわ」

ぽんとキリアの頭に手を乗せて、ゼンは船から飛び降りた。

(つまり、そういうことかよ)

今宵、美しく飾って、夜に連れ出す金色の髪を思い浮かべて、ゼンはニヤリと笑った。