剣のぶつかりあう音に、キリアはゆっくりと目をあけた。

目の前には、月明かりに照らされる、鮮やかな金髪。
そして響く、凛とした声。

「ウェルダー伯爵、少し酔われすぎでは?」

「これは……リアトレーゼンくん」

中年の貴族が、慌てて剣を仕舞う。
金髪の主は、キリアより少し年上であろう、まだあまり背の高くない少年貴族であった。
そんな少年に恐縮する中年の貴族を、キリアは不思議な面もちで眺める。

「失礼。父に、ウェルダー伯爵は随分酔っておられるようなので、送って差し上げろと言われましたので」

「リアトレーゼンくん……その子供が盗みを働いたのだよ……」

「この程度の窃盗は死刑には値しないはずです。ましてや、こんな路上で私的に剣を振るうなど、見つかれば問題となりますよ」

「……お父上に言いつけるかね」

「まさか。ウェルダー伯爵は立派なお方。ただ、酒が悪戯をしただけのことでしょう」

なので、早くお帰りになられよと言うように、若いリアトレーゼンは中年貴族を見つめた。

「そうか……送らなくても結構だよ。もう、酔いは冷めたからね」

中年の貴族は、貼りついた笑みを浮かべて、そそくさと夜道を去っていった。

暗い夜道に、キリアとリアトレーゼンは残された。